

レンタカー無人店舗運営に注目が集まる背景
ここ数年、レンタカー業界では、「スタッフの確保が難しい」、「時給や社会保険料の負担が重い」、「繁忙期はカウンターが行列になりクレームも増える」などといった課題が各社共通の悩みになっています。
その中で増えてきたのが、「レンタカーの店舗運営を無人にできないか?」という相談です。
一方で、レンタカー事業は道路運送法第80条に基づく「自家用自動車有償貸渡し」として許可制となっており、国土交通省の公表資料や通達に沿って運営する必要があります。
そこで、今回の記事では、現行の法令を遵守しながら可能な限り業務を自動化する「ハイブリッド店舗運営」の仕組みと、その実現に向けた具体的なステップについて紹介します。

国土交通省が公表している「カーシェアリング導入に関する資料」では、レンタカー事業は通達により「店舗において利用者と面談する必要性が示され、無人貸渡しは認められていない」、一方でカーシェアリングは、ITの活用などを条件に無人での貸渡しが認められていると明記されています。
また、レンタカー許可の通達(自旅第138号等)では、
などを整備することが求められています。
つまり現行制度は「人が関与する前提」で設計されているため、 「店舗に一切人がいない完全無人でのレンタカー運営」は、法律・通達の枠組み上かなりハードルが高いのが実情です。
とはいえ、「すべての手続きを対面で行う必要がある」、「すべての時間帯に複数名を配置しなければならない」というわけでもありません。
「どこまでなら無人化・省人化できるのか」を整理し、法令を守りながら人手不足を軽減するハイブリッド型を目指すのが現実的な方向性と言えます。
参考:
国土交通省「レンタカー事業」
国土交通省 自旅第138号「貸渡人を自動車の使用者として行う自家用自動車の貸渡し(レンタカー)の取扱いについて」
行政書士法人シグマ「レンタカー業を始めるための許可(自家用自動車有償貸渡業許可)」

同じ「車両を貸すサービス」でも、カーシェアリングとレンタカーでは前提となる仕組みが違うため、無人運用の難易度に差が出ています。
国土交通省の資料では、カーシェアリングはレンタカー事業の一種として位置づけられていますが、次のような特例が設けられています。
つまり、「初回登録の段階で対面の確認を行い、その後の貸渡し・返却はIT管理で無人でもよい」という設計が、制度上あらかじめ組み込まれています。
一方、一般的なレンタカー事業は、
といった「有人の店舗運営」を前提としたルールで整理されています。
この違いを簡単にまとめると、次のようになります。
そのため、レンタカーを「いきなりカーシェアリングと同じフル無人モデル」にするのは、現行の通達や運用の枠組みでは難しいと考えられます。
参考:
国土交通省「カーシェアリング導入に関する資料」
「環境にやさしいレンタカー型カーシェアリングの推進」
ここからは、レンタカー店舗の運営を
1.来店前
2.受付・契約
3.車両チェック
4.鍵の受け渡し
といったプロセスに分解し、どこまで無人化・省人化できるかを整理します。

カウンターが混雑する大きな要因は、氏名・住所・連絡先・免許証情報などの入力や支払情報の確認といった事務的なやり取りがすべて対面で発生していることです。
海外のレンタカー・モビリティ系サービスでは、Webフォームやアプリで免許証画像のアップロード、基本情報の登録、支払手段の登録を行い、店頭では「最終確認と受け渡し」だけといった事前チェックイン型の運用が一般化しつつあります。
これを日本のレンタカー店舗にそのまま適用するには、貸渡方法や約款との整合性を取る必要がありますが、「来店時点で、可能な限り入力済みの状態にしておく」という考え方は、法令の範囲内で十分に取り入れられます。

来店後の受付を省人化する方法として、無人受付機を設置するケースも増えています。
一般論として、カウンター横に置けるコンパクトな端末タイプや店舗入口や駐車場に設置する独立筐体、免許証読み取り・顔認証・決済機能まで備えた多機能無人受付機など、店舗規模や導線に応じたラインナップが存在します。
他社事例では、無人受付機と専用システムを連携させ、24時間の貸出・返却手続きの自動化をうたうサービスも登場しています。
ここで大事なのは、「どこまでを無人受付機に任せるか」、「どういう場合に人が前面に出るか」という「役割分担」を明確にしておくことです。
<参考記事>
中小も必見!大手レンタカー会社3社が採用する無人受付機と導入の狙い

車両の外装チェックは、レンタカーの現場でも時間がかかる業務です。
海外では、UVeyeのようなAI搭載のカースキャニングシステムが、レンタカー会社向けソリューションとして提供されています。
ゲート状の装置を通過するだけで、タイヤ・外装・下回りなどを自動撮影・解析し損傷の有無を自動検知・記録するといった仕組みが紹介されています。
一方で、海外の一部メディア報道や利用者の声として、ごく小さなスカッフ(こすれ傷)まで検知して高額請求につながったり、利用者側が「その傷はもともとあった」と主張するトラブルも発生しているといった課題も指摘されています。
日本のレンタカー店舗でこうした技術を活用する場合は、「人による最終判断を補助するツール」として使い、写真記録や比較のための証跡づくりに活用するといった半自動化の位置づけが現実的でしょう。

鍵の受け渡しも、スタッフの拘束時間が長くなりやすいポイントです。
海外では、鍵をスマートボックスで管理し、暗証番号やアプリで受け渡しするサービスやスマートフォンで車両の解錠・施錠を行うキーレス型ソリューション、デジタルキーを複数発行し、一定期間だけ有効にする仕組みなど、鍵管理の省人化に特化したサービスが増えています。
日本のレンタカー店舗では、営業時間外・早朝・深夜のみキーボックスを活用する、スタッフのいる時間帯は対面で受け渡しつつ、混雑時の一部受け渡しだけキーボックスに振り分けるといった一部導入からスタートするのが現実的です。
参考:
UVeye「The New Standard for Rental Car Inspections」
Hertz and UVeyeの提携紹介記事
Keycafe「Key Management for Car Rental」
Coastr「Keyless Entry for Car Rentals」
MoboKey「Remote Start Your Rental Car with MoboKey App」

ここまでを見ると、「技術的にはかなり無人化できそうだけれど、法律的にはどう整理すれば良いのか?」という疑問が出てきます。
結論から言うと、現行の枠組みでは、
が前提とされています。
一方で、カーシェアリングに関する資料では、
と明記されており、両者の違いが再確認できます。
この前提に立つと、レンタカー店舗で現実的に目指すべきは、「完全無人店舗」ではなく、「責任者は置きつつ、できる限り無人受付機に任せる省人化モデル」です。
具体的には、次のような切り分けが考えられます。
このように、「説明・判断」は人が、「入力・記録・反復的な処理」は無人受付機が担当するという役割分担を明確にすることで、法令を守りつつ現場の負荷を大きく減らすことができます。
省人化を進めるうえでは、次のような段階的なアプローチが現実的です。
このように段階を踏むことで、法令への適合性を確かめながらスタッフの負荷を徐々に下げていくことが可能になります。
<参考記事>
レンタカー受付の「人手不足」を解決!無人受付機運用ガイド

最後に、受付業務をどこまで無人受付機に任せられるかの具体例として、KAFLIX CLOUDが提供する「無人受付機」のイメージをご紹介します。
KAFLIX CLOUDの無人受付機は、レンタカー事業に特化して設計されており、営業資料では次のような機能が紹介されています。
これらを組み合わせることで、来店時の受付〜本人確認〜契約内容の確認・同意〜支払いといった一連の流れを、無人受付機で完結させる運用が可能になります。
無人受付機を店舗に導入することで、たとえば次のような効果が期待できます。

つまり、無人受付機を「受付の中心にあるフロント端末」として位置づけることで、法令上求められる責任者・店舗は維持しながら、日常の受付業務そのものは限りなく無人に近い形で運営するというハイブリッドな店舗運営が現実的に目指せます。
<参考記事>
無人受付機でレンタカー受付を効率化!人手不足解消と業務効率UPを実現

最後に、ポイントを整理します。
したがって、レンタカーで目指すべきは「完全無人店舗」ではなく、法令を守りながら人の負担を減らす“省人化”です。
そのための具体的な手段として、
といった施策を組み合わせれば、人手不足・人件費の高騰や繁忙期の待ち時間、クレーム、ベテランスタッフへの過度な依存といった課題を、法令遵守を前提にしつつ着実に軽減することができます。
まずは、自社の業務フローを 「人の判断が必要な部分」と「無人受付機に任せられる部分」に分解し、小さく試せるところから省人化を始めていくこと。
その一歩が、「レンタカー無人店舗運営」に限りなく近いハイブリッド運営への最短ルートになります。